命綱
- 2017/09/05
- 23:00
このお話は、毎晩編集さんと繰り広げている編集会議の会話の中で思いついたものです。実際のユノさんとは人物像が違うと思いますので、ドラマでこんな役柄を演じておられると思っていただけたらうれしいです。ではでは~________________「ねえユノ~、乳首立てて~」甘えた仕草ですり寄ってくる猫みたいな女。「氷で冷やせばいいだろ?」「だって冷たいし、すぐ元に戻っちゃうんだもん。」かわいいフリすりゃ、男...
命綱 2
- 2017/09/06
- 23:00
おれの母親はショーダンサーだった、らしい。おれを産んで間もなく亡くなったから覚えているはずもなく、周りの人たちから教えてもらえることもわずかしかなかった。なぜなら、ここに来たときにはその腹の中におれがいたからだ。ニューヨークで修行してきたって話も聞いたが、いまとなっては確かめようがない。けれど、おれの中に流れる血が母親から受け継いだものだとしたら、それは本当なのかもしれない。行けるものなら、おれも...
命綱 3
- 2017/09/07
- 23:00
子どものおれは知る由もなかったが、当時の劇場はもうひとつの顔を持っていた。いわゆる売春あっせん所だ。地元の人相手より観光客、特に日本からの団体さんが売春ツアーなるもので金を落としに来てくれてたらしい。団体でストリップショーを見たあと、気に入った女を指名して裏のホテルへしけこむ。そうやって女たちもおれの養親も稼いでいたわけだが、あるときを境に暮らしが傾いていった。2004年、政府が『性売買特別法』を制定...
命綱 4
- 2017/09/08
- 23:00
小学校の何年のときだったか、テレビでマイケル・ジャクソンを見てからダンスにハマっていた。踊り子たちの練習のためのビデオデッキと大画面のテレビがあったから、借りてきたビデオを何度も何度も再生して真似して覚え、友だちの前で披露して拍手喝さいを浴びたけど、それを快く思わなかったヤツに左右が逆だと指摘されて恥をかかされたっけ。あのときの振り付けは体が覚えているはずだ。いまから思えば、かなりセクシーな振り付...
命綱 5
- 2017/09/09
- 23:00
ステージで踊り始めたころは、転役からさほど時間が経ってなかったこともあって、筋肉の鎧をまとったようだったおれの体は、男のダンサーを増やしておれの出番を減らし、ショークラブにするための準備で奔走している間に、腹の6パックは跡形もなく消え去った。その上、経理や面倒な事務仕事をこなしてくれてた養母が少し体調を崩し、おれがひとりでやらなきゃならなくなってからよけいに太ってきた。姐さんたちは、少し柔らかみが...
命綱 6
- 2017/09/10
- 23:00
そのころになると学校でも周りの男たちがコソコソし始めた。休み時間にクラスメイトが集団で教室を抜け出すのについて行くと、体育館の裏なんかで誰かがこっそり持ってきた裸の女の写真集をみんなで覗き込んで小さな歓声を上げる。おれには何がいいんだかさっぱりわからなかったけど、しばらくすると誰かがズボンの前を押さえて走り去っていった。「俺も出そう!」ひとり、またひとり、何人かが走っていき、おれは小便でもガマンし...
命綱 7
- 2017/09/11
- 23:00
それからおれは劇場に行かなくなった。ちょうど中学に進学して、クラブ活動や勉強で忙しくなったっていい口実があったし、夜にひとりで家に置いといても大丈夫だろうと養親が思ってくれたからだ。それからも何度もあのときのダンサーのソレを夢に見て、朝こっそり下着を洗う日があった。顔も体もまったく覚えていないのに、その部分だけは鮮やかによみがえってきて、サッカーに打ち込んでもがむしゃらに勉強してもどうしても忘れる...
命綱 8
- 2017/09/12
- 23:00
ストリップ劇場からショークラブに変えるとき、コンセプトに合わせて劇場内を改装してもらった。金があったわけじゃないし、銀行から借りられた金では到底足りなかった。けれど踊り子たちが、なけなしの貯えを、踊れなくなったときの生活費を、おれに貸してくれたんだ。「ありがとう、利子付けて返すから。」って言うおれに、「利子なんかいらないから、一生ここに置いておくれ。」なんて笑って。まったく太っ腹な姐さんたちだ。そ...
命綱 9
- 2017/09/13
- 23:00
「ユノさん、これからこちらを担当させていただく、シム・チャンミンです。」いままでウチの担当だったドンへが、連れてきた男を手で示す。「はじめまして、シム・チャンミンと申します。仕事の内容はイ・ドンヘ先輩から申し送りを受けておりますので、月末に改めてまいります。」は?いま来たところでもう帰ろうってのか?!「そう、ですか。でもせっかく来られたんですからショーをご覧になってはいかがですか?仕事の参考にもな...
命綱 10
- 2017/09/14
- 23:00
「あ~~~~~っクソッ!」気を抜くとあいつの顔がちらついて、大きな声で悪態ついて髪の毛をかきむしる。「どうしたのさ、めずらしい。ユノでもそんなイラつくことあるんだね。」いつの間にそばに来ていたのか、姐さんに声をかけられて焦った。「あー、いや、何でもない。」「お金の心配?」「え?違うよ、そんなんじゃない。」そこはきちんと否定しておかないと、みんなに心配されてしまう。「正直めちゃくちゃ儲かってるとは言...