シルクとコットン 149
- 2019/08/26
- 23:00
仁川空港を13:20に飛び立ったエールフランス航空の飛行機は、現地時間の18:30にシャルルドゴール空港に降り立った。ビジネスクラスのシートとはいえ12時間は長く、いつもなら機内ではほとんど寝て過ごすけど、今回は持ち込んだパソコンで仕事していたから、よけいに体が固まってしまっている。荷物は機内持ち込みだけだし、さっさと入国審査を済ませ、到着ロビーに出ると、細身の男が待っていた。「ヒョン!」「おー、おかえりユノ...
シルクとコットン 150
- 2019/08/27
- 23:00
ファッションショーの舞台裏は戦場だ。そしてその準備の場も、これまた戦場に近いものがある。チャンミンを故郷に残しておれだけパリに戻ってきた日、店の二階ではミシンの音が機関銃みたいに響いていた。もちろんトゥギヒョンの采配は少しの間違いもなく、おれの指示以上に意図をくみ取って、おれのイメージ通りのサンプルが並んでいる。指示すべきことをちょっとだけ伝えて、一度家に戻った。トゥギヒョンは店の切り盛りとショー...
シルクとコットン 151
- 2019/08/28
- 23:00
いろいろと疲れが溜まっていたのか、泥のように眠って目が覚めたら夜が明けていた。チャンミンはどうしているのだろう。ソファーの前のローテーブルに置いた携帯を手に取って、ロック画面を表示する。そこには、こっそり撮ったチャンミンの横顔が笑っていた。メッセージ?慌てて開くとチャンミンからで、『返事できなくてごめん。無事に着いてよかった。アンさんのおばあちゃんが倒れて、となり町の病院へいっしょに行ってたんだ。...
シルクとコットン 152
- 2019/08/29
- 23:00
「おい、このボタンの色、間違ってるぞ!」「ここにフェイクファー付けて!」作業場は喧騒に包まれ、さながら戦場のようだ。それもあとちょっとで目途が立つ。オーバーミシンや穴かがり用、何種類もあるミシンがそれぞれの声でがなり立てる中で、黙ってチクチクとボタンやファーをつける縫子。既製服ならそういう部分もミシンでやるんだろうけど、一点物は手縫いで付けるのがおれのスタイルだ。「この生地、手触り最高ですね。」「...
シルクとコットン 153
- 2019/08/30
- 23:00
モデルの衣装合わせは問題なく終わる、はずだった。ソヨンがいなくなった分の補充ができなくて、前より少し負担をかけてしまうけど、その分ギャラを上乗せするってことはすぐに納得してくれたんだけど。どうもモデルたちの態度がいままでと違う。最終チェックはスタッフではなくておれが、一着一着その服が一番きれいに見えるようにモデルに合わせて微調整するんだけど。これまではよほど窮屈だとかじゃなきゃ、意見を言うことなん...
シルクとコットン 154
- 2019/08/31
- 23:00
本番前日の会場リハーサルの日。チャンミンの迎えはトゥギヒョンに頼んだけど、どうにも落ち着かない。いつもBGMと進行役をやってくれる母方の従妹と打ち合わせ。メイクとヘアメイクをお願いしている美容院のスタッフさんには、今回はあまり奇抜にならないようお願いした。今回の売りは何と言ってもオーガニックコットン素材だから。全体のコンセプトも思い切ってそこに寄せたものにしたんだ。広くはない会場で行うショーだといっ...
シルクとコットン 155
- 2019/09/01
- 23:00
「えっと叔母さん、あ、ありがとう。チャンミンが世話になって。」「いいのよ、わたしもこっちに用があったから。飛行機代が浮いて助かったくらい。」こっちに用事?「ああ、買い付けか。」「そうじゃなくてね。ちょっとここじゃ何だから、あとで時間もらえない?」「えーっと、もう少し待っててくれたら終わるけど。そうだな、30分くらい。」モデルたちは早く解放してやらないと肌の調子に響くし、裏方には指示さえ出せばおれはい...
シルクとコットン 156
- 2019/09/02
- 23:00
リハーサルが思っていたより長くかかって、チャンミンと叔母さんを待たせてしまった。「ごめん、待たせた!」ふたりはロビーのソファーに座って、楽しそうにしゃべっている。まったく、いつの間にこんなに仲よくなったんだ?「あら、終わったの?チャンミンとおしゃべりしてたから、あっという間だったわよ。」ああそうですか、なんかおもしろくねえ。あっ!!「そうだ!忘れてた。叔母さんのホテル取らなきゃ!」チャンミンのお母...
シルクとコットン 157
- 2019/09/03
- 23:00
チャンミンにとっては遅い夕食になるだろうけど、パリの街ではやっと夜が始まる時刻だ。ソウルでも江南辺りならこんな感じだろうか。会場のホールからほんの2~3分の距離にある、カジュアルなレストランにふたりを案内した。おれがひとりでショーができるようになってからずっと、年2回同じホールでやってきたから、そのたびにこの店で飲み食いし、ショーのケータリングをしてもらい、打ち上げもここでやる。だから店主もスタッ...
シルクとコットン 158
- 2019/09/04
- 23:00
「やあね、冗談なのにそんなに怒んなくてもいいでしょ?」「いや、怒ってるわけじゃなくて、けどチャンミンの前でたとえ冗談でもそんなこと、」「違うんなら別にいいじゃない。」チャンミンは笑っているだけで何も言わない。確かに何もないんだからいいのか?いままでだったら、ベッドを共にした相手とばったり会ったって平気だったのに、冗談言われただけでなんでこんなに焦るんだ?おれがひとりでドギマギしている間に、ミッシェ...