悪魔と死神
- 2022/03/27
- 23:00

おれはふわりと宙に浮かんで、今日の仕事場になる建物を眺める。都会を離れた田舎町の、森を切り開いたような広い敷地内に点在する建物。通りに一番近いところには一目でカトリックの教会とわかるとんがった屋根が見える。「修道院でいったい何があるって言うんだ?」ざっと見たところで、いまのところどこにも異常の兆しはない。どこかに何かないかと眺めていたら、なぜか心惹かれる場所で目が留まった。「うん?まさか、、」迷わ...
悪魔と死神 2
- 2022/03/28
- 23:00

『おい、そろそろ始まるぞ!』ヒチョリヒョンの声が大きく響いて我に返った。おれにとっては大きな声だけど、おれたち以外には聞こえない。「悪い、行くわ。」「待って、ぼくも行く!」さっきは人間の服を着ていたけど、瞬時に悪魔装束?になったチャンミンがとなりに立っていた。「おまえの契約者はだいじょぶなんだろ?」「何も感じないから大丈夫だと思うけど、念のために行くよ。」おれとチャンミンはいわば商売敵だからいっし...
悪魔と死神 3
- 2022/03/29
- 23:00

おれたちはそれぞれの受け持ちに対して静かに仕事をこなしていった。デスサイズの柄で対象者の記憶を巻き取り、鎌で肉体と魂を切り離す。といっても全部子どもだし、どうやら眠らされていた期間があったようで、記憶の巻き取りはあっけなく済んだ。魂の切り離しも、、子どもだからか、たぶん10歳前後くらいだろうが、生への執着がまるで感じられなかった。死を迎える人間たちの中には、やたら抵抗して逃げようとする人もいる。だい...
悪魔と死神 4
- 2022/03/30
- 23:00

ベッドに寝かされていた子どもたちは全員が息絶えたのに、周りの大人たちはまだ右往左往して蘇生させようとしている。その中でひとり、天井を仰ぎ何かを探すように視線をさまよわせている人がいた。ヒチョルがまとめた魂と記憶を天に送りに行ってる間、チャンミンとふたり宙に浮かんで下の様子を眺めている。「もしかしてアレが契約主か。」「ああ、そうだよ。」「どうして?なんでダメだったの?そこにいるんでしょ?」「おい、呼...
悪魔と死神 5
- 2022/03/31
- 23:00

「で?いったいどんな契約をしたんだ?」部屋の中を見回しながらあれこれ考えていて、ヒチョルの声で我に返った。「それは守秘義務ってやつで、」一瞬でヒチョルの纏う空気が色を変えて。「てめえ、ふざけんなよ。」ヒチョルにすごまれたチャンミンは困ったような顔をして降参したとでも言うように肩をすくめる。「不老不死の薬を作りたいんだってさ。」「はあ?不老不死だぁ?ったく、たかが人間のくせに何考えてんだ。」「自分の...
悪魔と死神 6
- 2022/04/01
- 23:00

「けど、それで薬ができると思ったんだろうな。」「たぶんね。だから人体実験までしたんだろうけど。」「で、失敗したわけか。」なんだか気分が落ち込んできた。「けどよ、これって由々しき問題だよな、俺たち天界人にとって。」「っていうか神様にとって、だろ?」ヒチョルとおれは顔を見合わせてから、チャンミンを見る。「へ?」チャンミンは自分を指さして小首を傾げ、「ぼく?」ときょとんとしているけど。「そりゃおまえ、お...
悪魔と死神 7
- 2022/04/02
- 23:00

人間にとって、死神も悪魔も似たようなモノかもしれないけど。おれたちはまったく違うモノだ。先ず、所属が違う。悪魔は魔界、おれたち死神は天界。つまりおれたちはあの天使と同じ所属になる。生き物の生死をつかさどる神様が統べるのが天界で、生が天使、死が死神、というだけなんだけど。なんで天使は愛されて、死神は嫌われるのかわからない。おれたちが仕事しなければ魂は転生できないっていうのにな。悪魔が所属している魔界...
悪魔と死神 8
- 2022/04/03
- 23:00

おれは正直複雑な心境だった。しばらくチャンミンを監視するってことは、ずっといっしょにいるということで。そのこと自体はうれしいんだけど、でもな、、、「悪いな、そういうわけだからしばらくくっついてるぞ。」「別に悪くはないけど、、」チャンミンもなんとなく居心地悪そうに見えるのは気のせいではないだろう。以前、おれとチャンミンは互いに惹かれ合っていた。それはもう理屈じゃなく、人間で言えば魂が惹かれ合ったんだ...
悪魔と死神 9
- 2022/04/04
- 23:00

「「あ、ごめん!」」ふたり同時に謝ったことにふたりとも驚いて顔を見合わせ、、寸の間見つめ合ってからつと目を逸らせた。なんとなく気まずくて何を言っていいのかわからない。「ごめん、懐かしくてつい触っちゃって。」チャンミンから先に改めて謝ってきて、「あ、いや、そういう、つまりその、触られるのがイヤとかじゃなくて」言い訳しようと思うけど、ヒチョルの声が聞こえたから、なんて言うわけにはいかず。「あのあと、大...
悪魔と死神 10
- 2022/04/05
- 23:00

チャンミンの周りの空気が震えて、「はい。」寝ていた風を装った声で返事して、ゆっくりとドアを開けに行った。ドアの外には焦った様子の修道女が立っていて、「大変なの、すぐに来て!」と叫ぶように言ってどこかへ走っていった。おれには人間の服を着たチャンミンにしか見えないけど、さっきの修道女には違う形に見えているんだろう。「ごめん、ちょっと行っていい?」「ああ。逃げないだろ?」「逃げないよ。あんたといっしょに...