キミはボクのひかり
- 2015/11/16
- 00:00
本屋なんて何年ぶりだろう。前はよく来て、気になる本を手に取ってパラパラ拾い読みしたり、時には夢中になってしまって店員さんに後ろで咳払いされるほど長い時間立ち読みすることもあったのに、時間が無くなったこともあるけど、人の視線に晒されるのも面倒で足が遠のいていた。ここ数年は、おれがアイドルとしては歳食ったってこともあるのかもしれないけど、以前ほどは周りに人が押し寄せてもみくちゃにされるってことは無くな...
キミはボクのひかり 2
- 2015/11/16
- 12:00
ちょっと年季の入ったビルで、セキュリティーとか全く関係なくて大丈夫なのかと思ったけど、ウチの事務所と一般企業とは違うよなって納得する。「エレベーターホールは左です。」そう言われて歩き出そうとしたらどういうわけかその人とぶつかった。「ぼく今左って言いませんでした?」あっ!どうしてだかわからないけど、おれ時々右と左を間違えるんだ。「すみません、間違えました。」クククッその人はガマンしきれないってふうに...
キミはボクのひかり 3
- 2015/11/17
- 00:00
エレベーター到着の音の後に、ぜーはーぜーはー肩で息してるヒョンの姿が現れた。「ヒョン、こっち!」ソファーから声をかけ手を振って合図すると、戸口を一歩入った所で立ち止まり、部屋の中に向けて深く頭を下げ叫ぶ。「ウチのユノが申し訳ありませんでした!」ボアさんが一瞬びっくりしたように目を見開いて、その後笑いながらヒョンに近づいてまだ下げ続けている背中を叩いた。「そんなにしていただくほど大したケガじゃありま...
キミはボクのひかり 4
- 2015/11/17
- 12:00
戻ってきたヒョンから詳しい話は聞いたけど、チャンミンさんの様子が気になって直接この目で確かめたいと思った。だからって仕事は後から後から湧いてきてその日終わったのは日が変わってからだったし、翌日からもほとんど隙間なくスケジュールが組まれていて、知らない間にあれから10日ばかりが過ぎていた。その間、あの日買った小説を時間を見つけては読んでいたけどなかなか進まなくて、めずらしく夕方に上がれて翌日は午後から...
キミはボクのひかり 5
- 2015/11/18
- 00:00
「ユノさんって、ぼくたちより2コ上なんですね。」「そうなんですか?88年?」「はい、ふたりとも2月です。」「それってまりさん情報ですか?」「もちろんそうですw だから敬語じゃなくていいですよ。」「いえ、教えていただくんですから。」「まじめだねぇ、イケメンさんは。」キュヒョンさんはおれが気に入らないらしい。「で、何をお知りになりたいですか?」「全て、です。おふたりに差し支えなければ、ですが。」「わかりま...
キミはボクのひかり 6
- 2015/11/18
- 12:00
次の仕事に行かなきゃならない時間が迫ってきた帰り際、もっといろいろ教えて欲しいと頼んだら、平日の9時から5時までの間ならいつ来ても誰かが相手をすると言ってくれた。おれの仕事は不規則で、ドラマや映画の撮影以外は午後から夜中までのことが多いから、少し早起きしたり仕事と仕事の合間や早く終わった時や、とにかく時間を見つけてはSM出版に通った。杖の使い方や空間把握の仕方、手で物を認知する方法なんかはキュヒョン...
キミはボクのひかり 7
- 2015/11/19
- 00:00
もう少しで幸せだった頃を撮り終え、運命の事故のシーンに向かって物語が動き出す。前にもケガで選手生命を絶たれたスポーツ選手の役を演じたことがあったから、ある程度の心情表現はできるとは思うけど、監督さんや脚本家さんと何度も話し合っても、演じきれる自信が持てなくて、少しナーバスになっていた。チャンミンさんに会いたい、無理に話を聞き出そうとかそういうことではなく、ただ会えば何かを感じ取れるような気がする。...
キミはボクのひかり 8
- 2015/11/19
- 12:00
エレベーターの扉が開くと、チャンミンさんはおれの腕を離してさっさとひとり歩いていく。コツン、コツン、と同じリズムを刻んで障害物がないか確かめる杖の音が心地よい。廊下の突き当りにあるドアの前でセキュリティーボックスのカバーを上げて暗証番号を入力しドアを開ける。全く淀みない一連の動作に、おれは目を閉じて同じことができるようになるんだろうかと不安になった。玄関でたたんだ杖をシューズボックスの棚に置き、靴...
キミはボクのひかり 9
- 2015/11/20
- 00:00
チャンミンさんは大きくひとつ息を吐いて、微かに震える指先をマグカップの持ち手に絡める。左手を添えて持ち上げたカップから、もう湯気が消えたコーヒーをひとくち口にふくんだ。おれも冷たくなったカフェオレを飲む。おれにとってちょうどいい甘さが、強張りかけていた肩の力を適度に抜いてくれた。互いの息遣いまで聞こえてしまうほど静かな部屋に、ふたつのマグカップをトレーに戻す音がコツン、コツンと響く。その音がおかし...
キミはボクのひかり 10
- 2015/11/20
- 12:00
『おまえが初心者マークのチャンミンか?俺キュヒョン、こう見えてベテランだ。って見えないけどな。あはははは!』「いきなりハイテンションで話しかけられたけど何言ってるのか意味わからなくて、なんでヌナはこんな奴連れてきたんだって腹が立って、帰れって言っても聞かないし。それから毎日やってきては自分のことばっかり一方的にしゃべって、ぼくが寝た振りしててもお構いなしなんですよ。」聞いてない相手に向かってひとり...