肌色の宝物 213

キュヒョンが、引っ越し準備の必要はないから残りのひと月であちこち旅行したいと言い出して。



シウォンさんはぼくたちもいっしょにと誘ってくれたけど、ぼくたちふたりとももう帰りたくなっていて。



ちょうどユノさんのお母さんの命日が近づいていたから、法事を口実に先に帰国した。



久しぶりに帰った家は少し埃っぽくなっていたけど、やっぱり我が家はいい。



アメリカではシウォンさんの好意に甘えて、贅沢な生活をさせてもらったけど。



なんだか落ち着かなくて、心の芯の部分が疲れてしまった。



「はあ、やっぱ家はいいなあ。」



ユノさんもぼくと同じ思いだったらしく、そう言いながら大きな伸びをしてソファーに沈み込んだ。



「ちょ、ユノ。座んないでよ。着替えて先に掃除しなきゃ。」



「うーん、掃除かあ。シウォンちじゃ掃除しなくてよかったのになあ。」



「じゃあウチもハウスキーパーさん雇う？」



ちょっと意地悪く言ってやったら、ユノさんは大きなため息を吐いて立ち上がった。



「おれは自分の部屋、掃除してくる。」



「棚の上とかちゃんと拭いてよ。」



「わかったー」



ぼくのほうは、床はお掃除ロボットのスイッチを入れるだけだけど、ユノさんは掃除機が好きで、よく大声で歌いながらかけている。



ぼくたちの家にはとなりがないから、どこからも苦情は来ていないけれど。



掃除機の音に負けないくらいの声だからかなり大きい。



ぼくが着替えて棚の上を拭き始めたころには、となりからユノの歌声が聞こえてきた。



いつもなら内心、うるさいなあと舌打ちするのに、今日はなんだかうれしくて。



ぼくたちの日常が戻ってきた、と心底ホッとしている自分がいた。










最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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